Mission Day at Sea X-faction Memories 03 Day Three Grand Cayman

CrystaTechCrystaTech ✭✭✭
編集済: 12月 2019 SITREP

お散歩AGの @CrystaTech です。

2019 11/3~11/9開催の、海のミッションデイ『Mission Day at Sea』SITREP、『Mission Day at Sea - DAY2 船上の日 - https://community.ingress.com/jp/discussion/7500/mission-day-at-sea-x-faction-memories-02-1-day-two-ship-day 』からの続きです。


Mission Day at Sea - DAY3 グランドケイマン島 -

アラームが鳴って起きる。十分に眠れただろうか。

出発の前に一つ憂鬱な事をしなければならない。ソフトバンクへの電話だ。

丸一日経っているので、請求情報が出ているかもしれないと思って電話したが、まだ出ておらず反映までにもう少し時間がかかる可能性があるとの事。これは、請求確定日までずっと怖いパターンじゃないか?気が重い。


ラッシュガードを着る。普段着みたいなデザインなので、着替えは持たなかった。本当は億劫だったと言うのが正しいが。

あまり時間が無いので荷物を背負って部屋を出る。ツアー参加者の集合場所は1階の何処かなのだが、目的のフロアに続くと思われる階段にロープが張られて閉鎖されている。他にも何人かMDASのストラップをつけたAGがいて、明らかに迷っている。3階に登ると "ツアー参加の方はこちら" と言う看板が出ていて、AG達が数人様子を伺っている。『ここじゃない、私達のツアーは1階だよ』 かなり時間が無くなって来ていたので、小走りになった。もしかするとウニ達は既に着いているのかもしれない。TGにメッセージを投げた。普段は通らない廊下を渡って行くと、別のAGのグループに鉢合わせした。『お前らも迷ってるのか? 僕達は3階に向かってる』 『こっちは3階から来たんだ。1階へのルートを探してる』 『全然よく分からないわ、どうなっているの?』


TGを見ると、ウニとクマが悠長に5階で食事を取っているとの事だったので、合流する事にした。

5階アーケードフロアのバーに列が出来ていた。2人が手を振って合図している。コーヒーが出来るのを待っているようだ。

一昨日腹を空かせて見ていた、パストリーや果物などのスナック類を置いてある店は、無料で食べ放題だったようだ。カウンターを見て小さなエッグロール(春巻きではなく、卵などの具を小麦粉の皮で包んだものだった)を頼んだ。

『一つでいいのかい?』スタッフの人が小さな皿を用意しながら訊く。『良くない...かもしれない。チキンロールもください』私は2つを受け取り、直ぐに皿を返した。下が紙で包んであって、手に持ちながら食べられるようになっている。

『急ごう』 

エッグロールを食べながら急ぎ足で1階に向かう。上手いところ正解ルートに乗ったようで、ゲートの人だかりの中に入った。ゲートではIDをスキャンしてもらう。IDが無ければ船には入る事も出る事も出来ない。


ゲートをくぐると、真っ青な空が見えた。眩しい。

船に60人程度が乗れる大きさの真っ白なボートがつけてある。そこに続々と乗り込んでゆく。海は目の覚めるような明るいエメラルドグリーンだ。

『間に合って良かったなぁ!』

海に落ちないように足元に荷物を纏めながら、私はそう言った。皆も頷く。ウニが自撮りモードにしてカメラを向ける。青空を背にした皆の極上の笑顔。このクルーズで初めての上陸だ。


船が出るのを待っている間、私は朝もう一度ソフトバンクに電話をした事を2人に話した。

『その事は、頭から消し去ってすっかり忘れちゃおう。考えていたら旅が台無しになってしまうよ』 ウニが笑顔のままでそう言った。

『うん、絶対に大丈夫だって俺らが保証する。』 とクマ。

『ありがとう』


2人の言う通りだ。寝惚けていたポジティブ野郎をもう一度叩き起こす。


ウニがゴソゴソとリュックサックから何かを取り出す。ビニール袋の中に、昨日食堂から貰って来たパンが入っていた。『お、ちゃんと持ってきたのなー。』『何かあっても飯の心配はいらないな。』


船が進み出した。改めて自分達が乗って来た船を見ると巨大だ。フォートローダーデールで見た時と違い、晴天の下だと白い船体が眩しい。グランドケイマンの桟橋までは5分程度である。『もうミッションが見えてるよ!』スキャナを覗き込んだAG達が後ろで話している。


島に上陸すると、今回お世話になるダイビングショップ、Sunset Houseの看板とINGRESSのサインを持った人を探した。

いた!

遥々日本から来た甲斐があるものだ。

実はこのツアーを予約するのには結構苦労したのである。


外はジリジリと太陽が照りつけていたが、ショップまでのシャトルバスの中は冷房がきいていた。

港でグランドケイマンでのミッション『Georgetown, Grand Cayman 1』を既に始めていた人はスキャナを開いていた。道中、ポータルをハックするだけでミッションが終わる簡単なお仕事である。『ハックしたかー?』 『ヘーイ』 『ハックしたかー?』 『ヘーイ』 と車は進んで行く。唯一私だけが、最後のポータルのハックが間に合わなくて、軽く戻ってもらうことになってしまったのだが...ゴメンナサイ。


Sunset House外観。いかにもリゾート地である。

受付と署名を済ませ、シュノーケリングの器材を借りる。

ウニと私は自前のマスクとシュノーケルを持参していた。ここで、フィンを持ってこなかった事を少々後悔。足が小さい人(と言っても日本人としては平均的サイズ)は小さいフィンになってしまうのだ。うむ、こんなのでパタパタやっていたら2人に追いつかないわ!


日陰に荷物を置くと、スタッフによりブリーフィングが始まった。

シュノーケルやフィンの口頭での使い方と、見どころの案内。あんまりにユルいので驚いてしまった。日本だとツアー時間の半分ぐらいが浅瀬でのシュノーケルの使い方講座だったりして経験者はゲンナリしてしまう。多分この方がAGなのだろう、海の中に人魚の像があって、それがポータルになっていると説明してくれた。


いやいやいや、申請したのは誰だ? そして、通したのは誰だ?

それは是非ボートに乗ってハックしに行きたいが、今回はシュノーケリングツアーである。私のiPhoneは水深2m以上の水圧でお陀仏だ。諦めるしかない。

(後から知ったが、防水ケースにスマホを入れて人魚の像の位置まで泳いで、ハックしてポータルキーを記念に持ち帰った猛者が何人かいたらしい。私も欲しかった!)

もう海に入っていいよー、と言われてぼちぼち...と言った感じでAG達が入って行く。コンクリートの岸壁に梯子が付けてあって、入るのも上がるのもとても楽だ。波も穏やかで海面が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。どんな世界が待っているのだろうか。そろりそろりと入って行ったが、水は全然冷たくなかった。顔をつけると、ウニがスイスイと潜っているのが見えた。仲間(ウニ)を探しているのだろう。自分も潜って耳が抜けるのを確認する。クマも入って来た。魚が見える、と言っていた。


先に入って行った人達を追って、沖の方に泳いで行く。思ったより透明度は高くない。しかし、日本では見た事のない魚が結構いた。そしてロクセンスズメダイ達よ、お前らは本当にどこにでもいるんだな。


暫く泳いで行くと、底の方に四角い人工物があるのが見えた。顔を上げると皆そこで静止して伺っている。それがポータルになっている人魚像だった。四角い物は人魚像の台座だった。海水の透明度が低く、空に微妙に雲がかかってあまり明るくないのでよく見えない。ちょっと潜って近づいてみる。陸にあるミニチュアバージョンと比べると結構大きいように見える。海底までは10mから12mってところだろうか。行ってみる事にした。

一度浮上し、呼吸を整える。すいーっと潜りたかったが、フィンが小さく、潜る時にバタバタしてしまったのであまり長く留まる事は出来なかった。思っていた以上に大きかったのと、材質はわからないけど表面が腐食しているのが何とも幻想的で、人魚像の顔を見て、腕にそっと触れた。もし水中カメラを持ってきていれば、もう一度潜って動画や写真を取りたかった。人魚の像が海の底の淀んだ青色に沈んでいると言うのは想像した以上に神秘的だった。


人魚の像を見た後は、次のポイントである珊瑚の多い場所、を目指したのだが、割と皆散り散りに浮かんでいるのでどの方向に行くのが正解なのかよく分からない。

取り敢えずは人の多めなところを目指して泳いで行くしかない。そして多分正解ルートに来れたのだけど、やはり透明度が良くないので底の方まで光がいまいち届いていなくて、折角の珊瑚も暗くてよく見えない。台風か何かがあって、海の底がかき混ぜられて少し濁ったのかもしれない。こればかりは自然任せだから嘆いても仕方がない。ダイバーの3人組が底を泳いでいる。タンクを背負っていれば多少暗くてもゆっくりと見られるから面白いだろう。ライトもあるだろうし。羨ましいので挨拶に行ってみた。

浅瀬に移動する。ウニがどこに隠していたのか、先ほどのビニール袋を取り出して魚にパンをやっている。非常食用に持ってきたパンの一部をお魚にお裾分けすることに決めて、持ってきたらしい。

千切られたパンがふわふわと溶けながら沈んで行くが、波で揺らされて、魚のいる所に上手く落ちてくれない。破片を摘んで潜り、魚の近くまで持って行ってやるが全く知らんぷりである。パンはお嫌いか。肉食なのだろうか。


『んんん!んん!?』

突然上から、シュノーケル越しの鈍い声がした。

何と、ウニの周りを体長60cmはあるだろうか、大きなピンク色の魚が一匹、くるくると泳ぎ回って、ウニが落とすパンの破片を次々に食べている。


自分も近くに寄ってみたが、逃げる様子が無い。パンを1つもらって、あげてみた。触れるほど近くに来て食べてくれる。と言うか何度か背中を指先で触った。ツルツルしていた。色や形は真鯛によく似ていたが、若干全体的にふっくらしており、胴体の中心部に直径2cmぐらいの黒い斑点があった。この辺で魚の餌付けツアーでもやっているのだろうか?胸のすぐ側で立派な魚体を翻して器用にパンを飲み込む様子が可笑しく、可愛らしく、ウホホホホと2人でシュノーケル越しの変な笑いが止まらなかったところ、手漕ぎボートのスタッフのお姉さんがやって来た。『お楽しみのところ申し訳ないけど、そろそろ時間なのよ。岸の方に戻ってね。』 ...我々は魚に別れを告げ(長生きしろよ!捕まって食われるなよ!)ショップの方向に泳ぎ始めた。カメラを持ってこなかった事をウニが後悔していた。『クマにも見せたかったね...』 同意である。

途中で3つ目のポイントである沈船を通りがかったが、ゆっくり見ている暇は無かった。『...これだけ??』 『いや、もうワンダイブぐらいあるでしょう』

名残惜しく陸に上がり、先に他の人達に付いて行っていたクマと合流する。身体中が塩でベタベタだ。海ってこんなにベタベタしてたものだったかな?借りていたシュノーケリング器材を返す。やはりワンダイブのみだった。

外のバーのテーブル席に座ると、メニューを貰った。このツアーには食事と飲み物が付く。

料金に含まれているものと別口で飲み物を買いに行ったクマが神妙な顔つきで歩いて来た。『USドルで払ったら、ケイマンドルで釣りが帰って来た。』そう言い、テーブルに『ジンジャービール』なるペットボトルの飲料を置く。ローカルの変な飲み物発見!ちょっと味見させて!って言うの忘れた!!

クマ曰く、アルコールだと思って買ったらただの生姜キツめのジンジャーエールだったらしい。$6もすればアルコール飲料と勘違いしちゃうのもわかる...。(因みに、お釣りのケイマンドルは後から行ったお土産屋さんで上手いところお買い物をしてほぼ使い切ったそうな。)


泳いだら腹が減る。メニューの項目は少ないが、どれを食ってもうまいに違いない。クマが『ケイジャンドルフィンバーガー』と言う、物議を醸し出しそうなネーミングのハンバーガーのセットを頼んだ。離れているとは言えイギリス領だぜ、まさかあのドルフィンちゃんがバンズに挟まれて出てくるなんて事は無いだろう。私はトリ手羽を頼んだ。


なんかすごいな...

量もだけど、ほとんど手羽元ばかり。好物だから寧ろ最高だけど。


ドルフィンバーガーは後で聞いたらマヒマヒ(シイラ)だったとの事。

白身で美味い魚ではあるけど、結構見た目はアレで、イルカとは似ても似つかない。

気味の悪い深海魚のフライを『白身魚のフライ』と書いて出すのと同じようなものだろうか。


Sunset Houseでのツアーが終わると、乗船の時間まで自由な散策時間になる。


私は昨日から続く小指の痛みに悩まされていた。

ダイビングブーツを脱いで、その状態に驚いてしまった。分厚く皮が剥けて生々しい状態になっている。これは痛いはずだ。フォーマルナイトで踵の高いサンダルを無理して履いていたので右側の小指に圧力がかかって靴擦れを起こしてしまったのだ。

ウニとクマに謝った。私はとても一緒にミッションは出来ないと。港のメダル取得条件のミッションだけやれればそれでいいと。


ウニは少し考えて、僕のサンダルを履いてみてよ、と言った。平たいサンダルなら脚先に体重がかからないからと。

私の足には大きすぎるんじゃないかな、と言ったらサイズをある程度調整できるものらしい。確かに、履いてみたら傷を庇いつつになるから少し変な歩き方にはなるけど、痛くはなかった。『だけど、ウニさんは何を履くんですか?』 そう聞いたら、『自分はこれでいい』 とダイビングブーツを指差した。

『そんな申し訳ないですよ』と言ったけど、ウニは『いいよ』と言ってくれた。

このサンダルなら、ここで1人で待たずに皆と一緒に行ける。

ペタシ、ペタシ、私は大きなサンダルでペンギンのように2人の後ろを付いて歩き始めた。


我々は、港のMDASのミッション『Georgetown, Grand Cayman 2』を残し、サブミッションの『WELCOME GRAND CAYMAN』4連を先に攻略する事になった。

メキシコの男女レジスタンスAG2人組がインターネットに繋がらないトラブルを抱えてしまっていたので、5人で助け合って進む事となった。男性の方は寡黙で殆ど喋る事が無かったので名前を覚えていないが、女性のポニーは日本に住んでいたことがあって日本語が流暢だった。グランドケイマン島のミッションはフォートローダーデールの墓ミッションとは違い導線がスムーズだった。しかしとにかく日差しが強く、暑い。ポニーは焼けたくないのか日差しでスキャナの画面が見えないからなのか、常に頭とスマホをバスタオルで覆って歩くので、お化けのコスプレみたいになってしまっていた。


クマが水平線の向こうを指差した。海の遥か向こうに濃い雲ができている。『...降る。』

それだけ言った。お前ナウシカか。確かに近づいてきたらヤバそうな雲だ。

サブミッションを無事こなした後は、道路を挟んでそこら中にあるお土産屋で土産物を物色する事に決まった。お土産を見つつ中で涼むと言うか。綺麗な都会の街なのだが、何故かその辺をニワトリが走り回っている。誰のニワトリなのだろうか。突然コォケコッコーーーーと雄叫びを上げて驚かしてくる。手羽元むしって食うぞ貴様。

我々は見に行かなかったけど、グランドケイマンは海亀が観光の目玉になっている。

土産屋には小さな石彫りの海亀がたくさん売っていた。しかしこれも含め、どの土産品も『いかにもお土産です!』ってデザインのものばかりなのだ。東京タワーに『TOKYO』とゴテゴテとした文字で大きく書いてあるキーホルダー。『伊豆の海の思い出』とパッケージに書かれたイルカのペンダント、しかし裏をみるとMade In Chinaと書かれている、そんな感じのものをイメージしてくれれば良い。


ポニーが目を輝かせて駆け寄って来た。

手に『Free Pearl』と書かれたチラシを持っている。とある宝石店に行くと無料で真珠をプレゼントしてくれるらしい。

如何にも高そうな店であったが、入ると確かに真珠の1つ入った袋を1人1人に渡してくれた。ここからは覚悟していた通りである。売り付け地獄である。取っ捕まってジュエリーを進められる。

『日本から来たの?君にはこれが似合う。ほら。』 おい、真緑のエメラルドをレジスタンスに勧めるな。

『そこにいるのは君のボーイフレンド?』 ウニとクマを指差す。ちゃうわ。『ケイマン諸島のボーイフレンドは?』 『おらん』 『指輪は好き?指を出して?素敵だよ、本当に素敵だ』 ポニーは真珠をゲットして光の速さで店を出ていた。強い。ウニとクマもいつの間にかいなくなっていた。『ごめんなさい、私には似合わないと思うわ。』そそくさと私も店を出る。すまんかった。色々な意味ですまんかった。だがしかし私が平民な事ぐらい、格好を見て分からぬか。真珠、ポニーにあげれば良かったな。


その近くにテントを張っているところがあって、そこはローカルのクラフト品やアートの展示場のようだった。

ここだよ、こう言う所だよ、本当に現地のお土産が買えるのは。


現地のアーティストの男性が、ガラスとセラミックスや塗料を融合させた幻想的な置物を展示しており、販売もしていたが、小さいものでもとても手が出る値段では無かった。残念。あれスゴかったなぁ、とウニ達も後から言っていた。


私は『ケイマナイト』と言うケイマン諸島で採取される石を使ったジュエリーに惹かれていた。ハンドメイドなので1つ1つ説明して貰えた。そして価格も小さなネックレスやブレスレットならば$10~15程度と決して高くない。

原石をそのままワイヤーで留めたものから、削って表面を滑らかにしたものなど色々とあった。層になっていて色合いが面白いのである。2点買ったらケイマナイトの原石をおまけしてくれた。実は、そこでもっと買い物をしなかった事を今でも後悔している。(皆には待たせてしまって申し訳なかった)


その後も涼みながらお土産屋さんに入る。大体どこも同じようなものを売っている。

クマがラッシュガードを欲しがっていて先ほどからずっと探しているのだが、全く見つかる気配が無い。幾つかTシャツを買っていた。クマはTシャツが好きなようだ。

ウニが何故かクマに女性用のブラウスを勧めていた。『お前の言う事は信じない』 クマが言う。ウニはニヤニヤしている。何故か2人の掛け合いが眩しかった。この暑さでBLに目覚めてしまったのだろうか。

港近くまで戻って来ていたのでMDASミッション『Georgetown, Grand Cayman 2』をサクッとこなす。

↑トカゲだろうか。

クマが言った通り、段々と天候が怪しくなって来た。空が曇って来ている。ただ、我々はお土産ショッピングの戦果に満足していなかった。『ローカルのスナックとか買って、船の中で食いたいよな。スーパーマーケット無いかな?』 クマが言う。『いいね』 残りが同意する。メインの通りから曲がると奥にそれらしき建物が見えたので、行ってみる事になった。

『...結構遠いぞ』 歩いている途中で気づく。『まぁ、30分ぐらい時間あるんじゃない?』そう言って時間の確認をしようとスマホの画面を見た私の目に飛び込んで来たのはPoCからの全体に向けたTGのメッセージだった。


『まだ遊んでる奴ら!!!!!今すぐ港に戻ってきなさい!!今すぐよ!!!!!!!!!!』


『うっそ...』

余裕を持って港に戻れるようにかけておいたアラームの設定を間違っていて、気づかなかったのである。

30分どころか、15分の余裕もなかったのだ。我々は港に向けて走り出した。

空気が湿り気を帯び、気温が下がって行く。


港に着いた頃は乗船が始まっていたが、まだその辺のスタンドでお土産の物色をする時間はあった。しかし何となくもういいかな、と思ったのでそそくさと乗船の列に並んだ。それで正解だった。並んでいるうちに雨が降り始めたのだ。『前の方の席は窓がある!空いてるからそっちに座ろう!』ウニがそう言って、我々は船首に近い席に座った。小雨だった雨はみるみる土砂降りのスコールに変わった。後1分乗船が遅ければずぶ濡れになっていた事だろう。『マジで危なかったね。』 雨水が滝のように滑り落ちる窓を見ながら、全員が乗船するまで、暫く誰も何も言わずに待っていた。それは多分、半分放心していたからだと思う。


渡りの船に乗って、我々のホームAdventure of The Seasへ。戻る時にもIDと荷物チェックがある。寄港地で買った液体物や食べ物は場合によっては持ち込めない場合があるようだ。免税店などで買った酒などは船には持ち込めないが、預かってもらって最後の下船の時に渡されるのだと思う。IDをスキャンする時にやたら大きな音で電子音が鳴るんだけど、これが自分的に好きだった。ピロリロッ♪


船に戻り、5階のバーカウンターの手前で日に焼けて顔の赤くなったウニとクマに聞いた。『取り敢えず呑む?それとも、シャワー浴びてスッキリしてから呑む?』 2人の答えは一緒だった。『シャワー浴びてから呑む。』 そうだよな。私も疲れたし、こんなラッシュガードは早く脱いで、海水と汗でベタベタの髪を洗いたい。カウンターでビールと水を貰い、我々はそれぞれの部屋へ帰った。


ビールを冷蔵庫にしまうと、マスクとシュノーケルをシャワールームに放り込み、化粧を落としてラッシュガードのままシャワールームに飛び込んだ。器材もラッシュガードも自分ごと洗ってしまうのだ。右足の小指の皮剥けにお湯が少々沁みる。だけど今日はみんなでミッションを出来て、街を回る事も出来て、本当に良かったな。シャワールームにはバスタブは無い。電話ボックスみたいな中でシャワーを浴びるのだ。自分も含めて全て洗い終わったら、ラッシュガードと機材を掛けられるところに掛けて乾かす。ラッシュガードは2日もあれば乾くだろう。


シャワーを出て、バスタオルで身体を乾かしながら鏡に映っただいぶ弛んだ腹を見て苦笑する。アメリカにバケーションに来れば多少太ってしまうのは仕方ない。だけどそんな事は気にせずに好きなものを食べて楽しまなきゃ損じゃない。少し涙目になっていた頭の中のポジティブ野郎に平手打ちを食らわし、裸のまま冷蔵庫から先ほど冷やしておいたビールを取り出す。今日で随分焼けた。鏡台に映る顔を見る。アルコールで若干痛覚を麻痺させて、爪切りで剥けかけた小指の皮をバツンと切り取ると、消毒して絆創膏を巻いた。部屋にまだウニから借りたサンダルが置いてある。まだ少し借りている必要がありそう。少なくとも今晩は。


私がトドのような姿でベッドに転がっていた頃、下のバーでは先にシャワーを浴びてスッキリした2人がバーで飲み始めていたようで、TGでお誘いが来た。

5階のバーに行くと、2人して色々とカクテルを試していたようだった。『やだなぁ、それ全部甘いんでしょ?』 甘いカクテルが苦手な私がそう言うと、ウニがニヤつきながら青汁並みに真緑のカクテルをこっちに差し出してきた。

『宗教的な理由で飲めないでしょこれ?』 

『うっわ意地悪。何が入ってんのこれ』 

『ブルーキュラソーとオレンジジュースとパインジュースだったかな?』 

口をつけたら思っていたよりは甘くなかった。


ウニクマコンビは本当によく呑む。

この2人は絶対にドリンクパッケージの元を取れているけど、私は絶対に負けてる。


その後、ウニクマルームで翌日のツアーの予定などを話しながら時間を過ごす。

私の小指もちょっとアレだが、クマの左足の小指も痛そうな感じになっていた。

シュノーケリングをしていたら痛くなったらしい。いわゆる『フィン擦れ』。フィンのサイズがピッタリ合ってなかったりすると靴擦れのようになってしまい、しかも水中だと皮膚がふやけているので短時間でひどくなりがちなのだ。

明日は絆創膏を貼って、靴下を履いてフィンと傷が直接触れるのを防いだ方がいいねー、と言う話をした。


20時。ディナータイム。

アペタイザーに頼んだフェタチーズのサラダが美味くて、また頼もうかと思った。

メインは茸のリゾットにした。

『肉でも、魚でもないのよ。いいの?』

ウエイターのお姉さんが聞いてくる。このお方は正直でとても好きだ。

肉も魚も食べたいのが山々だけど、お品書きの『ワイルドマッシュルーム』の響きに耐えられなかったのさ。

翌日もシュノーケリングツアーが入っていたので、お酒は控えめにした。


お酒が入るとローリーの娘自慢が始まる。それを聞き流しながら他の人が何を食べているのか見たりする。ジェイ、もう3日連続でアペタイザーにエスカルゴを食べているけど、そんなに気に入ったのか...

名前を忘れてしまったが、ジェイの隣の方がいない事に気がついた。呑みすぎて引っくり返ったらしい、と他の人が言った。バケーションだもの、仕方がないね。


明日の寄港地はコスタ・マヤ。

いよいよメキシコ領に入って行く。

ディナーの時に、ローリーにメキシコの衛生状況について聞いた。と言うのも、メキシコで腹を下してしまった話を何件か聞いた事があるからだ。

ローリーは早口で色々と答えてくれた。汚い水を使っているかもしれないから氷には気をつける事。水道水は飲まない事。ボトルに入ったドリンクを買う事。その際は一度開けた形跡がないのを確かめる事。行く所は観光地だからそこまで神経質にならなくても大丈夫な気はするけど、きちんと頭に入れた。


ディナールームを出る時、またウニがパンをテーブルから何個か取る。

今日はたくさんの昼食が出たが、明日は午前中の遅めの出発でツアーにも昼食は付かず、中途半端な時間にお腹が空いてしまう可能性がある。そんな時に周りに衛生的にヤバそうなところしか無かったらこれを食べよう、そんな話をした。


翌日の準備をする。

バーカウンターに行き、水のペットボトルを2本貰ってくる。冷蔵庫にストックがあったので3本リュックサックに入れる。自前のものだったら安心だ。何となくもう、この船の上での生活に慣れてきた気がする。

明日はどんな冒険が待ち受けているのだろう。





写真:@CrystaTech @coverlet @uni8

Great Thanks to @interlocking for awesome underwater photos!


次:Mission Day at Sea - DAY4 コスタ・マヤ -

あと3編で完成予定です。コメントに次のSITREPのリンクを貼ります。

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